Eat Me, Drink Me


 もしも水を与えたら、角砂糖のように脆く溶けていくのだろう。静かに、その形を失いながら。
 そうなっても構わない。それが自分の手によるものなら全て飲み込んでしまえる。その、すべてを。

 手についていた生クリームが全て舐め取られたのを感じて、土方は銀時の唇からゆっくりと指を外した。絡まる唾液が糸を引いてお互いを繋いでいる。嬲るように唇を弾いてやれば、銀時は艶の混じった息を吐きながら、そろそろとその場に膝を付いた。俯き、銀色の前髪が表情を隠すのと同時に、伸ばされた両腕が土方の腰を抱く。
「……銀時、」
 旋毛にそっと唇を落としてから、指先で意思を示す。土方が再び親指で銀時の唇を辿ると、それに応えるようにちらりと舌が覗く。耳朶を擽ってやれば、銀時は目を伏せて睫毛を震わせながら、熱に浮かされたように布越しに土方の中心に柔く噛み付いた。
「ちゃんと、」
「っ、」
「……この口で、」
「っんん、」
 もどかしい刺激を咎めるように己の性器を取り出すと、銀時の頬に立ち上がったそれを擦り付けた。白い肌が穢されていく様子に、再び背筋から快感が競り上がってくる。
「…んっ、は、あ、」
 水音を立てながら銀時の頭が上下するのを、知らず笑みを浮かべながら見つめる。
 戯れに腰を押し付けて喉を突くと銀時は苦しげに呻き声を上げ、髪に差し入れた手で優しく頭を撫でれば、うっとりと目を細めた。どちらの表情も痛いくらいに己を興奮させる。熱く、濡れた口内に締め付けられて、息が上がっていくのを抑えられずに腰を乱暴に動かした。
「んー、んっ、ん」
 苦しそうに閉じられた眦から涙が滲む。
「…っ、銀時、」
「んっ、ぁ、ぁぁ、」
 喉の奥に叩きつけるようにして、情欲を吐き出す。漏れ聞こえる声が、さらに煽り立てる。相手が苦しんでいる声が心地良いだなんてどうかしている。わかっているのに、どうしても。
 飲み込み切れない精が、銀時の口端から零れて頬を汚した。ぼんやりと瞬く虚ろな瞳が、再び誘うように向けられる。熱がまた際限なしに上がり出すのを感じずにはいられなかった。
「…きもち、よかった?」
「ああ、上手なれ、だな。おかげで我慢できねェ。」
「まだ?」
「もっと、だろ?」
 銀時はゲホゲホと咳き込みながらも、土方の手が精液を塗り込むように頬を擦っていくのをぼんやりと見つめている。この先の行為に期待して自分が恍惚とした表情を浮かべていることにも気付いていない。まるで子犬がむずがるような声を出して忙しなく熱い息を吐いている。
 それを目にしただけで土方は己の口元が歪んでいくのを感じていた。そっと銀時の傍らに座り、腕の中に抱き込んで耳元で囁く。耳朶を甘く噛んで舌を這わせれば、銀時の体がまたふるりと打ち震えた。
「ほら、可愛がってやるから脱げよ。ああ、着たままでもいいかもな、」
 今日は抵抗しないと決めているのか、銀時は文句ひとつ言わずに土方の言う通りに服を脱ぐ。そうして単衣だけを纏ってから、傍らに膝を付いた。だらしなく開いた胸元が誘っているようで、思わず乾いた唇を舌で辿る。
 抱き寄せると薄い布越しに銀時の中心が反応しているのがわかって、思わず口元を吊り上げた。だが、敢えてそれには触れずに太腿を弄り、首筋に唇を落とす。汗ばんだ肌が手のひらにしっとりと吸い付いてくるようだ。
「…っ、ふ、」
 白い肌の上を蛇のように這い上がり、単衣の上から奥の窪みを突くと立てていた膝から力が抜けた。
「んっ、ひじかた、」
「たまには、名前。」
「……っ、と、しろ、」
 仕置きのつもりで耳朶に歯を立てると銀時は短い声を上げて土方の肩口に額を擦り付ける。
 そのまま布越しの、後ろへの刺激は止めずに、逃げを打とうとする腰を引き寄せた。
「っ、あ、」
「…やらしいな、」
 お互いの性器を擦り合わせて見せつける。
「こっちはまだ触ってねェぞ。俺の舐めてただけでこんなにしちまってんのか、」

 淫乱。

 蔑むように笑みを浮かべながら、震える耳元に息を吹きかける。低く響かせるように意識して作った自分の声は、思ったよりも落ち着きを無くしているように聞こえた。
「…や、ああ、」
 それも興奮材料になるのか、銀時はビクビクと体を跳ねさせながら熱くなった腰を押し付けてきた。布越しに指を突き入れるような素振りを見せれば、先端から体液が滲んでくる。
「ひ、じかた、」
「名前。」
「っ、ひ、」
「ワザと言ってんのか、俺に虐めて欲しくて?」
「ちが、」
 こうして弱々しく頭を振る様子を普段の姿と結び付けられる人間がいるだろうか。沸き起こる優越感に脳が痺れていく。こんな姿は誰にも見せないと言って、泣いてせがむくらいに酷くしてやりたい。

 俺だけを、求めて。

「なあ、どうして欲しい?」
 円を描くように背中を撫でながら、目の前にある突起に唇を近づける。赤く色づいたそれは触れてもいないのに既に立ち上がって存在を主張していた。まるで愛撫を待ち侘びているように見えてしまう。見せつけるように舌を伸ばして口に含むと、銀時が一層甲高い声を上げて崩れ落ちる。
「ああっ、は、ぁ、」
 纏っただけの単衣から両肩が覗いたのを見て、その袖を脱がせた。しっかりと腰を抱きながら、再びテーブルの上に手を伸ばす。
「ほら、舐めろよ。好きなんだろ?」
 胸への愛撫は止めぬまま、生クリームに塗れた指を突きつける。すると、銀時は一瞬躊躇うように視線を動かした。構わず、その指を白い頬に擦り付ける。先ほど、土方の欲で穢したその肌に。
「や、っあ、」
 抗議を封じるように胸に歯を立てて、体中にクリームを塗り広げていく。
 己の手によって汚されていく光景に興奮しながら、そのいやらしさに土方は軽い眩暈を覚えた。
 腰のあたりで絡まった着物を払い除け、誘うように蠢くそこへ漸く濡れた指を突き入れる。突然の刺激に銀時はひぃ、と短い悲鳴を上げながら息を呑み、耐えるように眉を寄せた。悩ましげな表情を浮かべながら、土方の頭を掻き抱いて震えている。
「…ァ、ん……と、しろ、」
 譫言のように名を呼びながら、自分の好きな場所へ土方の指を向かい入れようと腰を揺らめかす。おそらく無意識で行っているその行為に、否応無しに体の熱を上げられる。
 土方は誤魔化すように熱の篭った息を短く吐いて、クリームのついた目の前の胸を舐め上げた。

 甘い、甘い。砂糖は人を惑わす毒だ。

「大丈夫、てめえが作ってくれたもんを無駄にしたりしねェよ。全部食ってやる、」
「ああっ、ちが、」
「何が違うんだよ。」
「ふ、んんんっ、」
 右の突起を舌で転がしながら吸い、左を押し潰すように指で弄る。焦らす愛撫に、強請るような濡れた瞳が向けられた。
「…も、はやく、」
「何を?」
「んっ、」
「…口が何の為についてると思ってんだよ。」
 趣味が悪いとわかっていても仕方ない。思わず自嘲してしまう。仕方ないだろう。そうさせるのは他でもないお前だけなのだから。
「てめえの口は俺のをしゃぶる為だけについてんのかよ。ほら、言ってくれねェと、な。」
「……っ、の、変態が、」
「そうそう、言えんじゃねーか。」
 揶揄うように銀の髪をいい子だ、と呟きながら撫でると、ついに銀時の顔が怒りでカッと染まり出した。後でぶん殴られるかもなと思いながらもやめられない。これくらい許して欲しいものだ。いつも一段高い場所にいて、その視点が合うことはない。そう思い知らされることばかりだ。余裕の無い銀時の姿を見られるのはこんな時くらいしか無いのだから。
「ほら、その口で言えよ、」
「…んぁ、ぁっ、ぁ、」
「そしたらてめえの好きなココも、奥も、いっぱい突いてやるから、」
「ああっ、いや、っだ、そこ、あっ、」
 優しく探るように内側を擦っていた動きを一旦止めて、弱い場所を乱暴に擦り上げる。
 快感に見開かれた瞳から、一筋の涙が頬を伝う。頬についたクリームと一緒に舐め取ると、それすらも感じるのか銀時はまた嬌声を上げて、先走りを溢れさせた。
「…お前の…っ、」
「俺の?」
 耐え切れない、というように肩口に噛み付かれる。甘い痛みに土方は口元を吊り上げながら、銀時の腰を上げさせて、後ろに熱を押し付けた。すると銀時は待ちかねたように土方の欲望に手を添えて、腰をゆっくりと落とし始める。熱い内壁に先端がぎゅうぎゅうと締め付けられるのをやり過ごす為、土方は浅い呼吸を繰り返した。
「俺の、何だよ?」
「…あっ、コレ、で、」
 全て収めると、銀時はブルブルと身体を震わせながら、土方の耳元に唇を寄せて、熱っぽい息を吐く。
 やがて、その腰が躊躇いがちに動き出す。快感に溺れていく様子に見惚れて、息を荒げながら土方は勃ち上がって震えている銀時の性器を掴んだ。また眩暈がする。
「ああっ!やぁ、」
「俺ァまだちゃんと聞いちゃいねぇぞ…っ、なのにこんな勝手して…仕置きは何がいいんだよ、」
「アア、ア、っ、はっ、あ、」
 戒めるように根元をきつく掴んで、乱暴に下から突き上げる。
 銀時は声にならない叫びを上げながら、戒められた性器の解放を求めて土方の手に爪を立てた。
「アッ、や、やだ、アア、外、せっ、」
「…っ、何で?」
 わかっているのに、ワザと意地悪く問い返す。だが、熱の篭った吐息は誤魔化せそうになかった。
「イく、イく…から、アアッ、イく、」
「…ちゃんと、言って教えろよ…なあ、銀時、」
 耳を嬲りながら、再び弱い場所を目掛けて腰を打ち付ける。潤んだ瞳からは涙が零れ、快感に染まった頬は先ほど土方が出した欲と生クリームで汚れてしまった。だらしなく開かれた口元からは誘うように唾液が垂れている。舌を這わせればどこもかしこも甘くて堪らない。
「…あ、中が、熱ぃ、くて…ひッ、あ、」
「で?」
「お、お前の、で…っ、ねがい、イく、ああっ、あ、」
 途切れ途切れの強請りに動きを止めると、銀時が土方の耳朶に噛み付いた。
「…っ、……て、」
 続けて小さく囁かれた言葉に、土方は身体中の水分が沸騰するのを感じていた。
 陶然とした視線に理性を奪われながら、戒めを外し、腰の動きを早めて、滾る精を注ぎ込む。銀時が息を詰めて震えながら達したのも同時だった。


「……あークソ、変態、マヨチンコ、」
「否定はしねェ。」
「サービスしなきゃよかった、」
「もらったもんは返せねェよ。」
「…あーあ、」
「お前、ほんとに得意だったんだな。」
「…何が、」
「M。」
「…知らね、つーか放せ。体中ベタベタなんだよ。」
「もうちょっとな、」
 しっかりと銀時の身体を腕に抱いて瞼を閉じる。
 濃密な時間は過ぎてしまえば、夢のように感じてしまう。

 溶けてしまえばいい。壊れてしまえばいい。
 この手が無ければ息もできないと縋って欲しい。
 囁かれた言葉、求められた熱。曝け出した姿。
 全てを飲み込んでしまいたい。

「…まあ何だ、おめでとさん、」

 祈りが通じたのか、呼吸を奪うように繰り返される乱暴な口付けを銀時は黙って受け入れている。
 頬を撫でられる優しい感触に、土方は酸素を奪われているのは自分のほうだと気付いてしまった。

 息ができないのは、
 壊れてしまうのは、
 飲み込んでしまわれたのは、


 甘い、甘い砂糖菓子。
 脆いのは、どっち?


【END】

2018.5.19 土方さんお誕生日おめでとう(大遅刻ごめんなさい本当は5日にアップしたかった)

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